民法改正に伴う「瑕疵担保責任」について
民法改正で「瑕疵担保責任」の何が変わるか
「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ
2020年4月1日に施行される民法改正によって、売買における売主の瑕疵担保責任の規定が大幅に見直される事となりました。
不動産売買において非常に重要な項目として、今までの「瑕疵担保責任」という概念が無くなり、「契約の内容に適合しないもの」(契約不適合責任)に変わります。すなわち改正民法では、法定責任から債務不履行責任へ変更される事となります。
今までの規定されていた「隠れた瑕疵」(旧民法570条)という表現が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」(改正民法562条)に変わり、買主が引渡しを受けた後、対象物に欠陥があった場合にとれる責任追及手段の選択肢が増えました。
逆に言えば、売主にとっては責任の範囲が広がるため、売主責任が一層重くなることが予想されています。
詳細は法務省の「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」をご確認ください。
「隠れた瑕疵」である事が不要
現行法では不動産売買において買主が売主に対し「瑕疵担保責任」を追及する為には、その対象が「隠れた瑕疵」であることが必要でした。
「隠れた瑕疵」とは、売買契約時に買主が、欠陥(瑕疵)の存在を知らなかった。買主が欠陥の存在を知らないことに過失がなかった場合を指します。
しかし、「隠れた瑕疵」は立証する事が非常に難しいという問題がありました。
そこで改正民法では「隠れた」という要件が不要となり、買主は売主に対して契約不適合責任を追及できるように変わっています。
契約不適合責任に基づき請求できる権利
旧民法(570条)では買主が売主に対して請求できる権利は契約解除もしくは損害賠償請求の二種類しかありませんでした。
民法改正により買主は下記の権利を請求できるようになりました。
(買主の追完請求権)第562条
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
(買主の代金減額請求権)第563条
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)第564条
前二条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)第565条
前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
買主の救済方法 | 買主に帰責事由 | 双方に帰責事由なし | 売主に帰責事由 |
追完請求(562条) | 不可 | 可能 | 可能 |
代金減額(563条) | 不可 | 可能 | 可能 |
損害賠償(564条) | 不可 | 不可 | 可能 |
解除(564条) | 不可 | 可能 | 可能 |
期間制限について
現行法では、瑕疵担保責任の追及は、「買主が事実を知ったときから1年以内に行わなければならない」とされていました。
しかし民法改正により、「契約不適合(ただし、数量不足の場合を除く)を知ったときから1年以内に契約不適合の事実を売主に通知」すれば足りることとなり、解除や損害賠償等の具体的な権利行使までは必要とされません。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)第566条
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
売主の責任と買主の権利
上記のとおり、売買契約に関する売主の責任については、非常に重要な変更がなされております。そして売主に求められる対応もより慎重さが求められます。
一方、買主は契約の内容をしっかりと確認し、自らの利益が損なわれるような内容が契約書に記載されていないかを確認する必要があります。
契約不適合責任は、「契約の内容」、「契約内容に適合しているか」を問われる責任です。
双方に不利益が生じないような注意を払い取引をおこなう必要があります。
また、不動産会社の仲介担当者も、改正された民法の内容をしっかりと把握する事が重要となり、お客様への説明や提案をする必要があります。
今後の売買で気を付ける点
契約内容を明確にする
前述でも述べた通り、改正民法では「契約不適合責任」を問われます。
建物の状態が契約内容と相違する場合、売主は買主から様々な請求を受けることになりますので、しっかりと建物の状況を把握したうえで、現状を契約書に記載する必要があります。
建物の状況を把握し報告する
改正民法によって建物の状態が「契約の内容に適合しているか否か」が問われます。そこに「隠れた瑕疵」は存在しません。
売買する物件の状態を可能な限り把握し、相手へ伝えることが後々の負担を大きく減らす事に繋がります。
建物の状態を把握する手段としては、専門会社による「既存住宅状況調査(ホームインスペクション)」が有効です。
※既存住宅状況調査は宅建業法の改正(2018年4月1日施行)により、媒介契約時に売主又は買主に対し、建物状況調査(ホームインスペクション)の実施に関し意向確認をおこなう事が義務化されました。
万が一に備えて
改正民法では、売主にとって様々な責任が降りかかります。中でも、建物に不具合が生じた場合、補修に係る費用を請求されるかも知れません。
このようなリスクを回避するためには、積極的に「既存住宅瑕疵保険」を付保する事が必要となってきます。
※既存住宅瑕疵保険は、建物調査を実施した検査会社が不具合が無い事を確認したことにより、売主に変わって瑕疵担保責任の一部を請け負い、構造部及び防水性能(雨漏り)に不具合が生じた場合、その補修費用をカバーする保険です。
まとめ
売主にとって、今回の民法改正は責任の範囲が広がるため、手間もかかり責任も一層重くなることが予想されています。
逆に買主にとっては今までのように「請求し難い権利」では無く、「請求し易い権利」となっています。
売買主にとって、民法改正は契約内容を大きく変える内容ですが、今までのように一部または全部免責することも契約上は可能な事は変わりません。
しかし、買主が請求しやすい権利となっていることから、「今までと同じ」が通用しなくなるケースが増えると考えられます。
そして売主が対応しなければならない事も増え、買主からの請求も増えてくることを想定しなければなりません。
売買主共に、安心できる取引を行う為、インスペクション+既存住宅瑕疵保険を有効活用することをお勧めします。
2019.12. 5公開
2020. 9.14更新